
はじめに:なぜ今、Mavenを学ぶべきなのか?
「またビルドでエラーが出た…」「ライブラリの依存関係を解決するのに時間がかかってしまった…」
Java開発に携わっていると、このような経験があるかもしれません。プロジェクトが大規模になるほど、ライブラリの管理、ビルド、テスト、デプロイといった作業は複雑になり、開発の妨げになることがあります。
もし、これらの作業を自動化し、開発効率を改善できるツールがあるとしたらどうでしょうか。その役割を担うのが、この記事で紹介する Maven です。
「今さらMaven?」と思う方もいるかもしれません。
しかし、MavenはJava開発の現場で広く使われ続けており、そのエコシステムも進化しています。
現在のJava開発においても、Mavenを理解して使いこなすことは、生産性を向上させ、チーム全体の開発プロセスを円滑にする上で役立つスキルです。
今回は、Mavenの基本的な概念と、現代的な開発環境におけるMavenのセットアップ方法を中心に説明します。この記事を参考に、Maven学習の第一歩を踏み出してみましょう。
目次
- 1. Mavenとは?:ビルドツールの役割とメリット
- メリット1. 依存関係管理の自動化
- メリット2. プロジェクト構造の標準化
- メリット3. 統一されたビルドプロセス
- メリット4. プラグインによる拡張性
- 2. Mavenの主要な概念:座標、スコープ、リポジトリ
- 2-1. POM (Project Object Model) – プロジェクトの設計図
- 2-2. GAV – プロジェクトの「座標」
- 2-3. 依存関係 (Dependencies) とスコープ
- 2-4. リポジトリ (Repositories) – ライブラリの保管場所
- 3. ビルドライフサイクルを理解する –
./mvnw installの裏側 - 4. Maven Wrapperによるプロジェクトの始め方【現代の常識】
- 4-1. Maven Wrapperとは?
- 4-2. 前提条件:必要なのはJDKだけ
- 5. Mavenプロジェクトの作成と実行:Hello World!
- 5-1. プロジェクトの作成(現代的なアプローチ)
- 5-2. プロジェクトのビルドと実行
- 6. まとめ:Mavenと共に開発の次のステージへ
対象読者
- Java開発を始めたばかりで、ビルドツールに興味がある方
- Mavenの基本的な概念や使い方を学びたい方
- 古いMavenの利用経験があり、現代的な使い方(Maven Wrapper)を知りたい方
- ビルドプロセスの標準化や効率化に関心のある開発者
1. Mavenとは?:ビルドツールの役割とメリット
Mavenは、Apache Software Foundationが開発したJavaプロジェクト向けの管理ツールです。
プロジェクトのビルド(ソースコードのコンパイルやパッケージ化)、レポート作成、ドキュメント生成などを自動化する役割を担います。
一言で言えば、「プロジェクトにおける様々な面倒事を引き受けてくれる執事」のような存在です。
Mavenを導入することで、主に以下の4つのメリットが得られます。

図: Mavenの役割とメリット
メリット1. 依存関係管理の自動化
pom.xmlに必要なライブラリを記述するだけで、自動的にダウンロード・設定を行います。手動でのjarファイル管理やバージョン競合の問題から解放されます。
メリット2. プロジェクト構造の標準化
「設定より規約(Convention over Configuration)」の思想に基づき、ソースコードやリソースの配置場所が規約として定められています。これにより、誰が見ても理解しやすいプロジェクト構造が維持され、チーム開発がスムーズになります。
メリット3. 統一されたビルドプロセス
コンパイル、テスト、パッケージ化といった一連のビルド手順が標準化されています。開発者の環境に依存しない、一貫性のあるビルドをコマンド一つで実行できます。
メリット4. プラグインによる拡張性
豊富なプラグインを利用することで、コードカバレッジの測定、静的解析、デプロイの自動化など、プロジェクトの要件に合わせて柔軟に機能を拡張できます。
2. Mavenの主要な概念:座標、スコープ、リポジトリ
Mavenを理解する上で、プロジェクトの定義や依存関係を管理するためのいくつかの重要な概念があります。
2-1. POM (Project Object Model) – プロジェクトの設計図
pom.xml は、Mavenプロジェクトの中心となる設定ファイルです。
プロジェクト名、バージョン、依存ライブラリ、ビルド方法など、プロジェクトに関するあらゆる情報がXML形式で記述されています。
Mavenは、この pom.xml を読み込んでプロジェクトを管理します。
2-2. GAV – プロジェクトの「座標」
pom.xml の冒頭には、通常以下の3つの要素が定義されます。
これはGAVと呼ばれ、世界中に存在する無数のライブラリから特定のものを一意に識別するための「座標」の役割を果たします。
- groupId:
- プロジェクトを作成した組織やグループを識別するID。(例:
org.springframework,com.google.guava)
- プロジェクトを作成した組織やグループを識別するID。(例:
- artifactId:
- プロジェクト(ライブラリ)固有の名前。(例:
spring-core,guava)
- プロジェクト(ライブラリ)固有の名前。(例:
- version:
- プロジェクトのバージョン。(例:
6.1.10,33.2.1-jre)
- プロジェクトのバージョン。(例:
なぜこれが必要か?
インターネット上の巨大な倉庫(セントラルリポジトリ)から、的確なライブラリを探し出すためです。
この3つの組み合わせにより、「どの会社の、どの製品の、どのバージョン」といった指定が可能になり、ライブラリの取り違えを防ぎます。
2-3. 依存関係 (Dependencies) とスコープ
プロジェクトで利用する外部ライブラリは <dependencies> タグ内に記述します。
ここで重要なのが スコープ (scope) の概念です。スコープは、そのライブラリがプロジェクトのどの段階で必要になるかを定義します。
<dependencies>
<!-- ① コンパイル時も実行時も必要 (デフォルト) -->
<dependency>
<groupId>org.projectlombok</groupId>
<artifactId>lombok</artifactId>
<version>1.18.32</version>
<scope>compile</scope>
</dependency>
<!-- ② テストコードのコンパイル・実行にのみ必要 -->
<dependency>
<groupId>org.junit.jupiter</groupId>
<artifactId>junit-jupiter-api</artifactId>
<version>6.0.1</version>
<scope>test</scope>
</dependency>
<!-- ③ 実行環境(例: Tomcat)が提供するため、コンパイル・テスト時にのみ必要 -->
<dependency>
<groupId>jakarta.servlet</groupId>
<artifactId>jakarta.servlet-api</artifactId>
<version>6.1.0</version>
<scope>provided</scope>
</dependency>
</dependencies>なぜスコープを使い分けるのか?
最終的な成果物(jarやwarファイル)に不要なライブラリを含めず、軽量でクリーンな状態に保つためです。
例えば、テスト用のライブラリ(JUnit)が本番環境のアプリケーションに含まれる必要はありません。
スコープを正しく設定することで、ビルド時に必要なライブラリだけが適切にパッケージングされます。

図: スコープによるライブラリの有効範囲
2-4. リポジトリ (Repositories) – ライブラリの保管場所
Mavenがライブラリをダウンロードしたり、ビルドした成果物をアップロードしたりする場所です。
- ローカルリポジトリ:
- 開発者のPC上に存在するリポジトリで、一度ダウンロードしたライブラリはここにキャッシュされます。
- セントラルリポジトリ:
- インターネット上に公開されている、世界中のMavenユーザーが利用できる巨大なリポジトリです。ほとんどのオープンソースライブラリはここに登録されています。
- リモートリポジトリ (プライベートリポジトリ):
- 企業内などで独自に構築されるリポジトリで、自社開発のライブラリなどを管理するために使用されます。

図: Mavenの依存関係解決の流れ
3. ビルドライフサイクルを理解する – ./mvnw install の裏側
Mavenのコマンドを実行すると、内部では「ライフサイクル」と呼ばれる、あらかじめ定義された一連のステップが順に実行されます。
これを理解すると、Mavenの動きが手に取るように分かります。
主要なライフサイクルは以下の3つです。
default: プロジェクトのビルドとデプロイを行う、最も重要なライフサイクル。clean: ビルドで生成されたファイル(targetディレクトリなど)を削除する。site: プロジェクトサイトのドキュメントを生成する。
./mvnw clean install というコマンドは、「cleanライフサイクルを実行し、次にdefaultライフサイクルのinstallフェーズまでを実行せよ」という命令です。
特に重要なdefaultライフサイクルは、多数の「フェーズ」で構成されています。

図: defaultライフサイクルの主要なフェーズの流れ
例えば ./mvnw package を実行すると、validate から package までのフェーズが順番に実行されます。
- compile: ソースコードをコンパイルする。
- test: コンパイルされたテストコードを実行する。
- package: プロジェクトをjarやwarなどの形式にパッケージングする。
- install: パッケージ化された成果物をローカルリポジトリにインストールする。これにより、他のローカルプロジェクトから依存関係として利用できるようになります。
なぜこれが重要か?
Mavenが単なるコマンド実行ツールではなく、プロジェクトを構想から完成(デプロイ)まで導く、一貫した工程管理システムであることを理解できます。
各フェーズは独立しつつも連動しており、これによりビルドプロセスの品質と再現性が担保されるのです。
4. Maven Wrapperによるプロジェクトの始め方【現代の常識】
かつては、各開発者が自身のPCに手動でMavenをインストールするのが一般的でした。
しかし、この方法には「開発者ごと、あるいはCI/CDサーバーごとにMavenのバージョンが異なり、ビルド結果が変わってしまう」という根深い問題がありました。
現代のJava開発では、この問題を根本から解決する Maven Wrapper (mvnw) を利用するのがベストプラクティスです。
4-1. Maven Wrapperとは?
Maven Wrapperは、プロジェクトに同梱されるスクリプト群(mvnwとmvnw.cmd)と設定ファイルで構成されます。
mvnw: macOSやLinuxで使用するシェルスクリプトmvnw.cmd: Windowsで使用するバッチファイル.mvn/wrapper/: Wrapperの設定と、特定のバージョンのMaven本体をダウンロードするためのjarファイルが含まれます。
開発者が mvn コマンドの代わりに ./mvnw コマンドを使うと、もし指定されたバージョンのMavenがPCになければ、Wrapperが自動的に正しいバージョンをダウンロードしてきてビルドを実行します。
これにより、チーム内の全員が常に同じバージョンのMavenを使うことが保証され、ビルドの再現性が劇的に向上します。
4-2. 前提条件:必要なのはJDKだけ
Maven Wrapperを使う最大のメリットは、開発者が事前に準備するものが Java Development Kit (JDK) だけで済む点です。Maven本体をPCにインストールする必要はありません。
- JDKのインストール確認:
ターミナルやコマンドプロンプトで、以下のコマンドを実行してバージョン情報が表示されればOKです。
java -versionなぜ「mvnw」がこれほど重要なのか? ITアーキテクトからの視点
新しい開発メンバーがプロジェクトに参加する場面を想像してみてください。
Maven Wrapperがない”古の”開発現場:
- 「まず、JDKのバージョン21をインストールしてください」
- 「次に、Mavenのバージョン3.9.6を公式サイトからダウンロードして、環境変数
M2_HOMEを設定し、PATHを通してください」 - 「Aさんの環境ではMavenのパスが通らない?
~/.bash_profileを確認しましょうか…」 - 「BさんのPCには古いバージョンのMavenが入っていて、ビルドに失敗する…?」 このような環境構築のトラブル対応だけで、半日以上の時間が溶けてしまうことも珍しくありませんでした。
Maven Wrapperがある”現代の”開発現場:
- 「JDKのバージョン21をインストールしてください」
- 「プロジェクトを
git cloneしたら、ターミナルで./mvnw clean installを実行してください」 たったこれだけです。mvnwは、「このプロジェクトをビルドするために必要なMaven」そのものをプロジェクトに内包してしまうという考え方に基づいています。これにより、開発者個人の環境差異という問題を根本から解決し、誰が実行しても同じ結果になる「ビルドの再現性」を保証します。 プロジェクトの規模が大きくなり、関わる人数が増えるほど、この恩恵は計り知れません。まさに「インフラをコード化する(Infrastructure as Code)」という考え方を、ビルドツールレベルで実現しているのがMaven Wrapperなのです。
5. Mavenプロジェクトの作成と実行:Hello World!
それでは、Maven Wrapperを使って「Hello World!」プロジェクトを作成し、その動作を確認してみましょう。
5-1. プロジェクトの作成(現代的なアプローチ)
現在、Mavenプロジェクトを作成する最も簡単で推奨される方法は、Spring Initializr のようなプロジェクトジェネレーターを利用することです。これにより、ベストプラクティスに沿ったプロジェクト構造と、Maven Wrapperが自動的にセットアップされます。
- Webブラウザで https://start.spring.io/ を開きます。
- 以下の項目を選択します。
- Project:
Maven - Language:
Java - Spring Boot: 最新の安定版(例:
3.5.9) - Project Metadata:
- Group:
com.example - Artifact:
my-app
- Group:
- Packaging:
Jar - Java: LTSバージョン(例:
21)
- Project:
- 「GENERATE」ボタンをクリックすると、プロジェクトのzipファイルがダウンロードされます。
- ダウンロードしたzipファイルを任意の場所に展開します。
展開した my-app ディレクトリの中には、pom.xml やソースコードと共に、mvnw, mvnw.cmd, .mvn ディレクトリが最初から含まれていることを確認できます。これが、あなたがMaven本体をインストールしなくてもビルドを実行できる理由です。
Spring Bootの開発環境構築については、以下の記事で詳しく解説していますので是非ご覧ください。
5-2. プロジェクトのビルドと実行
- プロジェクトディレクトリへの移動:
ターミナルやコマンドプロンプトで、作成したプロジェクトのディレクトリに移動します。
cd my-app- ビルド(パッケージング):
プロジェクトをビルドし、jarファイルを作成します。mvnではなく./mvnwを使うことに注意してください。
./mvnw clean package(Windowsの場合は mvnw clean package と入力します)
このコマンドは、cleanライフサイクル(ビルド成果物の削除)を実行した後、defaultライフサイクルのpackageフェーズまで(compile, testを含む)を実行します。
成功すると target/my-app-0.0.1-SNAPSHOT.jar のようなファイルが生成されます。
- 実行:
生成されたjarファイルを実行します。
java -jar target/my-app-0.0.1-SNAPSHOT.jarコンソールにSpring Bootの起動ログと「Hello World!」が表示されれば成功です!
補足:既存プロジェクトへのMaven Wrapperの追加
もしMaven Wrapperが含まれていない既存のプロジェクトに追加したい場合は、そのプロジェクトのディレクトリで以下のコマンドを実行します。この場合のみ、一度だけシステムにインストールされたmvnコマンドが必要になります。
# 特定のMavenバージョンを指定してWrapperを生成する場合
mvn wrapper:wrapper -Dmaven=3.9.8
# 最新の推奨設定(バイナリを含まない)で生成する場合
mvn wrapper:wrapper -Dtype=only-scriptこのコマンドを実行すると、プロジェクトにmvnwファイル群が生成され、以降は全メンバーが./mvnwコマンドを利用できるようになります。
6. まとめ:Mavenと共に開発の次のステージへ
今回は、Mavenの基本的な概念から、その力を支える「座標(GAV)」「スコープ」「ライフサイクル」といった核心的な仕組みまでを解説しました。
特に重要な点として、OSごとの手動インストールに代わる現代的なアプローチ、Maven Wrapper (mvnw) を紹介しました。Maven Wrapperを利用することで、開発チームは環境の違いに悩まされることなく、再現性の高いビルドを簡単に行えるようになります。
また、Spring Initializrを使ってプロジェクトを作成し、./mvnwコマンドでビルドと実行を行う一連の流れを通して、Mavenの基本的な使い方を体験しました。
Mavenは、Java開発におけるビルドとプロジェクト管理を、再現性高く、効率的に行うための強力なエコシステムです。今回学んだ基礎を土台として、ぜひあなたのプロジェクトにもMaven Wrapperを導入し、その効果を実感してみてください。
このロードマップが、皆さんがMavenを使いこなし、開発効率を向上させる一助となれば幸いです。次回の記事では、より実践的なpom.xmlのカスタマイズ方法や、よく使われる便利なプラグインについて掘り下げていきます。
免責事項
本記事は、情報提供のみを目的としています。記載されている情報には正確性を期しておりますが、その内容の完全性、正確性、信頼性、適合性について、いかなる保証も行いません。
記事の内容は執筆時点のものであり、将来的に変更される可能性があります。
本記事の情報を利用したことによって生じるいかなる損害についても、筆者および公開元は一切の責任を負いません。
読者の皆様自身の責任において、情報の利用および判断を行ってください。
