
思考のショートカット 、コマンドパレットを相棒にする
前回(Zedのファイル操作、テキスト編集、拡張機能の活用術)、前々回(Zedの紹介とインストール)では、Zedのインストール、魅力と基本的な設定について解説しました。
今回は、いよいよその真髄に迫ります。マウスを完全に手放し、キーボードだけで思考を中断せずにコーディングを続けるための「必須コマンド」を厳選して紹介します。
Zedを操作する上で最も重要なのが、cmd-shift-p(macOS)またはctrl-shift-p(Linux/Windows)で起動するコマンドパレットです。これは、Zedのあらゆる機能にアクセスできる入り口となります。
マウスに手を伸ばす代わりに、コマンドパレットを開いて目的の操作を数文字入力する。
この習慣が、あなたを「思考の速度」へと導きます。
例えば、「新しいファイルを作りたい」と思ったら、コマンドパレットにnew fileと入力∏するだけです。
最初は少し戸惑うかもしれませんが、心配ありません!
この記事で紹介するコマンドを実践すれば、ファイル操作、カーソル移動、テキスト編集といった日常的な操作を、まるで呼吸をするようにコマンドだけで完結できるようになっているはずです。
コマンドを単なる暗記リストではなく、「思考のショートカット」として、あなたの筋肉に刻み込んでいきましょう!
本記事では、主にmacOS環境でのZedエディタの操作コマンドを解説しています。WindowsおよびLinuxをご利用の方は、以下の読み替えを参考にしてください。
cmd(Commandキー) →ctrl(Controlキー)opt(Optionキー) →alt(Altキー)
例: cmd-shift-p は Windows/Linux では ctrl-shift-p となります。
対象読者
- Zedエディタの基本的な操作を習得し、さらに効率を高めたい方
- マウス操作を減らし、キーボード中心の高速なコーディングを目指したい方
- 日々の開発作業の生産性向上に興味がある方
目次
- ファイルとプロジェクトを自在に操る
- ファイル検索と作成
- タブの移動と分割
- 思考を止めないカーソル移動術
- カーソル移動と選択の基本:フットワークを鍛える
- 方向キー
- 修飾キー
- 主要コマンド一覧
- カーソル移動と選択の基本:フットワークを鍛える
- 編集効率を極めるテキスト操作
- 基本的な編集コマンド
- 高度なテキスト操作コマンド
- テキストケース変換
- 行操作
- 複数カーソルの活用
- 選択範囲の確認
- ターミナルとのシームレスな連携
- 主要コマンド一覧
- まとめ:コマンドを筋肉に刻み込もう
- 免責事項
ファイルとプロジェクトを自在に操る
まずは、日々の開発で最も頻繁に行うファイルやプロジェクトの操作から見ていきましょう。
ファイル検索と作成
cmd-p(file_finder:toggle): プロジェクト内のファイルをインクリメンタルサーチで瞬時に開きます。もう、サイドバーをスクロールしてファイルを探す必要はありません。cmd-shift-n(project_panel:new_file): プロジェクトパネルで選択中のディレクトリに新しいファイルを作成します。
// 例:src/components/ içinde新しいButton.tsxを作成
1. cmd-pで `src/components` を開く
2. cmd-shift-n を押し、`Button.tsx` と入力してEnterタブの移動と分割
cmd-opt-→(pane::ActivateNextItem): 次のタブに移動します。←で前のタブに戻ります。cmd-\(pane::SplitRight): 現在のペインを右に分割します。cmd-shift-\で下に分割します。分割したペイン間の移動はcmd-kの後に方向キーです。
思考を止めないカーソル移動術
コーディング中の思考の流れを止めないためには、カーソルを意のままに操る技術が不可欠です。
カーソル移動と選択の基本:フットワークを鍛える
Zedでは、基本的な方向キーと修飾キーを組み合わせることで、複雑なカーソル移動や選択を直感的に行えます。コマンドパレットで editor: move や editor: select を検索すると多くのコマンドが見つかりますが、まずは以下のビルディングブロックを理解することが重要です。
方向キー
left: カーソルを左に移動right: カーソルを右に移動up: カーソルを上に移動down: カーソルを下に移動
修飾キー
cmd: エディタ内の「端」へのジャンプを指定します。- 例:
cmd-leftは現在の行の先頭へ、cmd-upはファイルの先頭へジャンプします。 cmd-rightは行の末尾へ、cmd-downはファイルの末尾へジャンプします。
- 例:
alt: 「単語の境界」で区切られたテキスト間をジャンプします。単語の境界は、英数字以外の文字(スペースや句読点など)で発生することが多いです。- 例:
alt-leftは現在の単語の先頭へ、alt-rightは単語の末尾へジャンプします。 altとctrlを組み合わせると、サブワード間をジャンプできます(例:camelCaseやsnake_caseの変数名で便利です)。
- 例:
shift: 移動操作を選択操作に変換します。- 例:
shift-leftは左に移動する代わりに左を選択します。 - 他の修飾キーと組み合わせることも可能です。例:
cmd-shift-leftは行の先頭までを選択します。
- 例:
主要コマンド一覧
opt-→/opt-←: 単語単位でカーソルを移動します。cmd-→/cmd-←: 行の先頭/末尾に移動します。cmd-shift-o: 現在のファイル内のシンボル(関数やクラス名)を検索し、瞬時にジャンプします。cmd-r:breadcrumbs(パンくずリスト)を開き、関数の定義などに素早く移動します。
編集効率を極めるテキスト操作
テキスト編集の効率は、生産性に直結します。Zedの強力な編集コマンドを使いこなし、タイピング数を劇的に減らしましょう。
基本的な編集コマンド
cmd-d: 現在選択している単語と同じ単語を、次々と選択範囲に追加していきます(複数カーソル)。一度に複数の場所を編集したい場合に絶大な効果を発揮します。opt-shift+ ドラッグ: 矩形選択(ブロック選択)を行います。複数の行の同じ位置を一度に編集したい場合に便利です。ctrl-shift-→(editor:select_more): 選択範囲を文法的に拡大していきます。単語→括弧の中→行全体、といった具合に、賢く選択範囲を広げることができます。ctrl-shift-←(editor:select_less): 選択範囲を縮小します。
高度なテキスト操作コマンド
テキストケース変換
Zedには、異なるプログラミング言語の命名規則に合わせてテキストケースを変換する非常に便利なコマンドが多数用意されています。
editor: convert to lower camel case: 小文字のキャメルケースに変換 (例:myVariable)editor: convert to upper camel case: 大文字のキャメルケースに変換 (例:MyVariable)editor: convert to lower case: 全て小文字に変換 (例:myvariable)editor: convert to upper case: 全て大文字に変換 (例:MYVARIABLE)editor: convert to kebab case: ケバブケースに変換 (例:my-variable)editor: convert to snake case: スネークケースに変換 (例:my_variable)editor: convert to title case: タイトルケースに変換 (例:My Variable)editor: convert to opposite case: 大文字と小文字を反転editor: convert to sentence case: 文頭のみ大文字に変換editor: toggle case: ケースを切り替えるeditor: transpose: 文字を入れ替える
行操作
リストのソートや重複削除など、行単位での操作もZedでは簡単に行えます。
editor: delete line: 行を削除editor: duplicate line up: 行を上に複製editor: duplicate line down: 行を下に複製editor: join lines: 行を結合editor: move line up: 行を上に移動editor: move line down: 行を下に移動editor: reverse lines: 行の順序を反転editor: shuffle lines: 行をシャッフルeditor: sort lines case insensitive: 大文字小文字を区別せず行をソートeditor: sort lines case sensitive: 大文字小文字を区別して行をソートeditor: unique lines case insensitive: 大文字小文字を区別せず重複行を削除editor: unique lines case sensitive: 大文字小文字を区別して重複行を削除
複数カーソルの活用
Zedでは、様々な方法で複数カーソルを配置し、効率的な編集が可能です。
search: select all matches: 検索結果の全てを複数選択(バッファ検索フィルターと組み合わせ可能)editor: select all matches: 現在の選択範囲と同じテキストの全てを複数選択editor: select next: 次の同じテキストを選択範囲に追加editor: split selection into lines: 選択範囲を行ごとに分割し、各行にカーソルを配置editor: add selection above: 現在のカーソルの上にカーソルを追加editor: add selection below: 現在のカーソルの下にカーソルを追加editor: undo selection: 直前の選択を解除- 列ベースの選択:
alt-shift+ マウスドラッグで矩形選択
選択範囲の確認
複数の選択範囲が意図しない箇所を選択していないか確認したい場合、editor: open selections in multibuffer コマンドを使用すると、全ての選択範囲をコンパクトなマルチバッファビューで表示できます。これにより、選択範囲の確認や編集が容易になります。
ターミナルとのシームレスな連携
エディタから離れることなく、gitコマンドやnpmスクリプトを実行できる統合ターミナルは、開発ワークフローを中断させない重要な機能です。
主要コマンド一覧
ctrl-+`: 統合ターミナルを開きます。
まとめ:コマンドを筋肉に刻み込もう
今回は、Zedでの生産性を爆発的に向上させるためのコマンドを厳選して紹介しました。
これらのコマンドは、一度にすべてを覚えようとする必要はありません。まずは、あなたが最も頻繁に行う操作から一つずつ試してみてください。そして、意識的にマウスから手を離す時間を作ってみましょう。
コマンドがあなたの指に馴染み、「筋肉レベルで」実行できるようになったとき、あなたは本当の意味で「思考の速度でコーディングする」という体験を手にすることができるはずです。
「思考の速度」とは何か? Zedが目指す開発体験
Zedの公式サイトを開くと、”Code at the speed of thought” という力強いメッセージが目に飛び込んできます。これは単なるキャッチフレーズではありません。Zed開発チームが目指す、プロダクトの根幹をなす哲学です。
では、「思考の速度」とは具体的にどういうことでしょうか?それは、以下のような状態だと私は解釈しています。
- アイデアから実装までの遅延がゼロに近いこと: 頭に浮かんだロジックを、エディタの制約に邪魔されることなく、即座にコードに落とし込める。
- ツール操作が意識から消えること: ファイルを開く、シンボルを探す、コードを整形するといった作業を、意識することなく、指が覚えたショートカットで実行できる。
- コンテキストスイッチを最小限にすること: エディタ、ターミナル、ドキュメント、デバッガ。これらのツール間を、思考を途切れさせることなく、シームレスに移動できる。
Zedは、この理想的な開発体験を実現するために、パフォーマンスの追求もありますが、徹底的なキーボード中心のUI設計というアプローチを取っています。
もちろんマウスも使えますが、Zedの真価はキーボードだけで全ての操作を完結させられる点にあります。
これは、コーディング中にキーボードとマウスを行き来する小さなコンテキストスイッチを無くし、思考の流れを維持するための重要な設計思想です。
免責事項
本記事は、Zedエディタに関する情報提供を目的としています。記事の内容は執筆時点での情報に基づいており、Zedエディタの今後のアップデートや変更により、内容が古くなる可能性があります。情報の利用は読者自身の判断と責任において行ってください。本記事の情報に基づいて発生したいかなる損害についても、著者は一切の責任を負いません。
